

会津からは車で1時間ほどで米沢に着く。米沢に来た目的は本場の米沢牛を堪能することと、上杉家の城下町である米沢の歴史を感じることの2つである。まずは夕食で事前に予約を入れてあった登起波の分店登へ。登起波は創業明治27年の米沢で一番古い米沢牛の専門店である。席だけの予約で注文はお願いしていなかったが、牛丼、しゃぶしゃぶ、すき焼き、焼肉、ステーキなどで米沢牛を堪能できる。どれにしようと迷うが、迷ったときは一番値段の高いものを注文してしまう悲しい性(さが)でおすすめの特選ヒレステーキと米沢牛握り、牛串を注文する。一切れ、一切れを味わいながら食べるが、余計な脂肪などがまったくなく、すぐに完食。まずは米沢に来た目的の一つを達成する。



米沢は江戸時代は上杉家の城下町。戦国時代、上杉氏の始祖である謙信には子がなく、死後、跡目争いに勝った甥の景勝が豊臣秀吉に会津120万石を封じられたが、関ヶ原の戦いで負けた西軍側についたことで米沢30万石に減封され、幕藩体制下で米沢藩として幕末まで存続した。名門上杉家には、初代の謙信、二代景勝に仕えた名臣直江兼続、藩の財政立て直しに取り組んだ名君、九代上杉鷹山など、自分の大好きな人物がズラリと並ぶ歴史ファンにはたまらない土地なのである。



上杉家廟所へ


上杉家累代の藩主の墓所のある上杉家廟所へ。真ん中には、初代の謙信の廟所があり、両側に一棟に一柱づつ歴代藩主の廟屋と石灯篭が横一列に並ぶ。質実剛健の米沢藩の気風がよく表れていて造りは質素で杉木立の中で凛とした雰囲気に包まれている。上杉謙信の辞世の句(謙信は厠で脳卒中で倒れたらしいが、辞世の句は事前に準備してあったらしい。これも武人の嗜み?)「四十九年 一睡夢 一期栄華 一杯酒」が好きで、墓前でこの句を思い出しながら心の中で呟いていたら手を合わせ拝んでいる時間が少し長くなってしまった。同じ49歳で亡くなった織田信長が好んで舞ったという敦盛の一節、「人生五十年 化天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり」にも通じる人生観を感じる。人の人生など悠久の歴史からすれば、一瞬の儚きもの。自分も思い切りやりたいことをやって人生を終えたいと思う今日この頃・・・。
上杉家廟所で一句
義の風に 気もまた涼し 杉の杜
上杉謙信公


自分は「歴史上で尊敬する人物は誰か」と問われれば、上杉謙信の名をあげてきた。上杉謙信は元は長尾景虎と名乗っていて、坂東八平氏の一つで越後の守護代を務めていた長尾家の出。戦国武将の中では戦いに滅法強く、「越後の龍」という異名を持つ。自分が謙信を尊敬する理由は、「義」に生きた武将であるということ。謙信の行う戦いは常に状況が不利な側に立つ助太刀の精神に基づいている。それが、彼の戦への大義名分だったのであろう。弱肉強食の戦国時代において、自分の領土の拡大を「私利私欲」によるものとし、そんな戦を嫌った謙信を戦国大名としては無能と批判する声もあるが、この時代に義の精神で己の生きざまを貫いたのはすごい。7回にも及ぶ武田信玄との川中島の戦いも信玄に侵略を受けた北信濃の豪族に救いを求められてのものであり、時の将軍、足利義輝も謙信を兄のごとく慕い、その求めに応じて自国を空にするという危険を冒し越後の軍勢を率いて二度の上洛を行っている。関東に勢力を広げていた北条氏に追われて勢力を失っていた関東管領上杉憲政もまた謙信を頼り、最後は上杉家の名跡と関東管領職を謙信に譲っている。そして極め付けは、何度も謙信と戦った武田信玄までもが、息子勝頼に困った時は謙信を頼るようにと遺言しているのだ。「謙信なら損得勘定ではなく助けを求めれば動いてくれる」と同時代に生きた武将たちみんなからそんな風に思われている武将は他にはいない。
上杉謙信公家訓十六ヶ条 「宝在心」

一、心に物なき時は心広く体 泰(やすらか)なり
(物欲がなければ、心はゆったりとし、体はさわやかである)
一、心に我儘なき時は愛敬失わず
(気ままな振舞いがなければ、愛敬を失わない)
一、心に欲なき時は義理を行う
(無欲であれば、正しい行い、良識な判断ができる)
一、心に私なき時は疑うことなし
(私心がなければ他人を疑うことがない)
一、心に驕りなき時は人を教う
(驕り高ぶる心がなければ、はじめて人を諭し教えられる)
一、心に誤りなき時は人を畏れず
(心にやましい事がなければ、人を畏れない)
一、心に邪見なき時は人を育つる
(間違った見方がなければ、人が従ってくる)
一、心に貪りなき時は人に諂(へつら)うことなし
(貪欲な気持ちがなければ、おべっかを使う必要がない)
一、心に怒りなき時は言葉和らかなり
(おだやかな心である時は、言葉遣いもやわらかである)
一、心に堪忍ある時は事を調う
(忍耐すれば何事も成就する)
一、心に曇りなき時は心静かなり
(心がすがすがしい時は、人に対しても穏やかである)
一、心に勇みある時は悔やむことなし
(勇気を持っておこなえば、悔やむことはない)
一、心賤しからざる時は願い好まず
(心が豊かであれば、無理な願い事をしない)
一、心に孝行ある時は忠節厚し
(孝行の心があれば忠節心が深い)
一、心に自慢なき時は人の善を知り
(うぬぼれない時は、人の長所や良さがわかる)
一、心に迷いなき時は人を咎めず
(しっかりした信念があれば、人を咎めだてしない)
<現代語訳は米沢物産観光協会より>