夏の甲子園の広島県代表の広陵高校野球部上級生による下級生への暴力事件SNSで告発され炎上している件で、阿部俊子文部科学大臣が「暴力は大変遺憾」とするコメントを出すなど、大きな騒ぎとなっている。この件について、自分が思うことを書きたい。

間違った正義感が招く人権侵害

 まず、事実関係がはっきりとしないところで、被害者の親側が出している情報のみで、「代表を辞退すべき」とか1回戦の対戦相手の旭川志峯高校の選手が試合終了後の握手を拒否したことの是非など、広陵高校への過激な批判が出ていることに怖さを感じる。

 被害者側の父親が自身の顔まで出し勇気を持って告発していることは、わかるのだが、現状、告発された側は甲子園で戦っている最中ということもあり、この件について加害者側や指導者がコメントや反論をすることができないという面で、今現在の立場でいうと強者は被害者側で、弱者は広陵野球部側である。そのことを理解した上で正義感を発揮しないと、ネット上での広陵叩きはただの弱い者イジメのように自分には映る。5月11日の投稿で述べた通り、いじめについては、個々の案件に様々な背景があり、仮に暴力や暴言があったとしてもそこに至るまでのやり取りや感情のもつれなどもあることが一般的(体罰案件も同様)。そしてそこまでの細かい部分は当事者や直接双方から話を聞き取ったものでないとわからない部分が多い。SNSで、一方からだけの情報で正邪を判断し、間違っているかも知れない正義感で他人を批判することが、人権侵害につながるかもしれないという意識がない人が多いという点が自分には怖いのだ。

この騒ぎを受けて行われた学校側の発表による事件の内容は今年1月に加害生徒は4人で、「胸を叩く、頬を叩く、腹部を押す、胸ぐらをつかむ行為」をしたというもの。そしてこの「部員間の暴力を伴う不適切な行動」で、日本高野連から3月に厳重注意処分を受けていたことを明かした。

暴力はよくないが・・・

この学校側の発表はSNSで告発されたものと加害者の人数も暴力の内容も違うが被害生徒は3月末に転校しているのは事実らしい。また、これも本当のことかわからないが、寮内で禁止されていたカップラーメンを被害者が食べていたのを上級生が知り、このような行為を行ったとのこと。昔のことを持ち出すと時代遅れとの批判を受けてしまうが、自分が学生の時には、こういった部内のルールを1年生が破ってしまうと、殴られる、蹴られるは当たり前で、1年生全員に集合がかかり、上級生に連帯責任で全員が殴られる(しかも殴る方も手だと痛いので、気合注入棒とよばれる代物が用意されていた・・・)上に、長時間の正座や真夜中のランニングなど受けるのは日常茶飯事で、こうした先輩の行為を「セッキョ」と呼び恐れ、しでかした同級生に「頼むからやめてくれ」と懇願したもの。体育会系の世界では、何か不始末があると、すべてチームの問題として連帯責任で、指導者⇒上級生⇒下級生と指導されるため、こういうルールを守らない者がいると自分にも被害が及んでくるので、しでかした者に怒りを覚える気持ちもわからなくはない(自分以外もそういう経験をしてきた人はきっとそうだと思う)。そしてこれをイジメと云われてしまうと、ちょっと違和感があるのも実際のところ。「そんな昔のやり方は今通用しない」「たかがカップラーメンを食べただけで暴行されるのはありえない」という声もあるが、この時代に彼らは甲子園に出るために、強豪校のこういう昭和的な理不尽な世界に身を置き、耐えているのだ。学校側が発表した「胸を叩く、頬を叩く、腹部を押す、胸ぐらをつかむ行為」がどの程度の強度で行われたものかは我々にはわからないのだが、決まりを守らない者に怒りをぶつけてしまうのには同情してしまう点もあるということ。学校側の加害生徒に対する処分は甘いと云われているが、もしかしたら学校側もこうした認識なのかもしれない。しかし、「この時代に暴力はダメだろ」といわれれば言い返すことはできないし、傷ついている人もいるので、この点については学校側も理解して高野連に報告し、処分を受けたのであろう。

罰を与えることだけが教育ではない

 甘いといわれてしまうかもしれないが、自分の高校生活のすべて、いや小学生の小さい時から、甲子園を目指してきた努力と想いを知っている者(教師もそうであろう)からすれば、意識が低く態度もよくない下級生に対し、本気で野球に取り組んでいる者が怒りをおぼえて制裁してしまうことを、単にいじめの一言で片づけられない学校側にも同情してしまう部分がある。世間の人は忘れがちだが、基本的に学校は教育機関で、こどものよくない行動を反省させなければならないが、反省しているこどもの将来の希望を奪うところではないのだ。今回のケースでいうと生徒を守るために指導者が責任をとって早めに退任すべきだったと思うが、SNSでの展開があまりにも早すぎてこのような騒動になるとは予想できず対応できなかったのであろう。

高校生には酷すぎる現状

 被害者本人のくやしさや親の気持ちもわかるが、学校や高野連の処分内容が適切であったかどうかや、チームが大会を辞退すべきかどうかを議論するのは、県の予選前にするべきことで、実際に県の予選を必死に戦い、勝ち抜いて、県の代表として、憧れの甲子園に出場が決定した段階で、半年以上前の話やそのこととは別件の話も出して辞退しろというのは、正直いってやられた恨みを晴らしているだけで、果たしてそういう意識と行動が被害者の高校生の将来にとってもプラスになるとは思えない。またSNSで写真や実名を晒され、バッシングされている現状が、まだ未熟な年代である高校生に対してあまりにもむごいと感じるのは自分だけであろうか?「高校野球は教育の一環なのだから、加害者側が平然と試合に出ているのはおかしい」という声もあるが、教育の一環だからこそ、ただ罵しるのではなく、自分のよくなかった部分を反省し、被害者と加害者の両方に心の傷をなるべくつけずにすむような、お互いの将来にとって良い方向を探りたい。

広陵高校の出場辞退のニュースをきいて

上記の内容で投稿をあげようと思っていたところ、広陵高校が出場を辞退するというニュースが入ってきた。このように誹謗中傷が続く中で、プレイを続けるのはなかなか難しいと思っていたので、こうなることも予測していたが、このことにより繊細で多感な時期である高校生の心にどんな想いが残されるのかということを考えると胸が痛い。報道によると校長の話の中にこの件に関係のない広陵の一般の生徒が登下校中に追いかけられたり誹謗中傷を受けたり、寮で爆破予告があったりという内容のことがあったらしい。これが事実だとすれば、個々のいじめの問題も遺憾だが、こういう間違った正義感による私的制裁(これこそ弱い者イジメだと自分は思う)が蔓延る社会の方に怖さを感じるのは自分だけであろうか?「部員間の暴力は大変遺憾だが、SNSによる誹謗中傷やいやがらせは社会的暴力と同じであり絶対に許されないことだ」と文科相なり、高野連会長なり、校長が強く言ってほしいと願う。